第一話「カレイド・スコープ」

神界、人間界、そしてその二つを結ぶ天羽。

遥か昔から、この世界はこの三つの世界で成り立っていました。

神界には神様と天使が住んでいました。そしてこの三つの世界がいつまでも平和であるように、皆が幸せであるようにと祈り続けました。その祈りのおかげで、この世界はずっと平和だったのです。

ところが、ある日突然大きな災害や戦が起こるようになりました。それは悪魔の仕業で、神様と天使たちは悪魔たちと戦い、幸せに過ごす人々を、この世界の平和を取り戻そうとします。ところが悪魔たちの闇の力はとても大きく、この世界ごと真っ暗な闇に包まれてしまいそうでした。

そこで立ち上がったのは真珠の女神と呼ばれている美しい一人の女性でした。

「光よ。この世界を救ってください」

真珠の女神は祈りました。零れ落ちる涙は宝石となり、やがて一箇所に集まって虹色に輝きはじめました。

すると悪魔たちが次々と消えていきます。壊れた街も、倒れた人々も、すべてが元通りになりました。

「嗚呼……っ真珠の女神よ」

「女神様……!」

神様たちは空を見上げ、祈ります。

真珠の女神は自分の命と引き換えに、この世界を救ったのです。真珠の女神の涙が作り出した虹色の宝石《神の雫》には悪魔や災いが封印され、平和の象徴となったのでした。


その平和も、再び終わってしまいます。

真珠の女神の死から数百年。今度はこの《神の雫》が砕け、人間界に散らばってしまったのです。

そのせいで人間界には魔物が出現するようになってしまいました。

このままではまた同じことが起こってしまうと考えた神様たちは、天羽にいる《神》でも《ただの人間》でもない《魔法使い》たちに《神の雫》の欠片を集め、さらに魔物たちから人々を救うように命じたのでした――。



エレメンタルウィザード・カレイドスコープ 第一話



「よし、いぶき!回収だ!」

赤髪のツインテールの少女が叫ぶ。その隣で青色の長い前髪に眼帯の少女が頷いている。いぶきと呼ばれた緑色のロングヘアを白いリボンで一本にまとめた少女が、地面を蹴り空中へ飛んだ。虹色に輝く小さな破片を掴むと、ガラス瓶の中に閉じ込める。にっこりと笑って

「任務完了ね!」

地上へと戻っていく。

この三人は神の雫を回収する仕事をしている魔法使いだ。

赤髪のツインテールは紅えん(通称ルビー)。つり目で強気な性格だが、まだ十五歳であり背が小さいということもあって可愛がられている。

緑色のロングヘアに眼鏡ですらっとした長身の碧川いぶき(通称エメラルド)は、十七歳でこの中では年長。優しくて強い、みんなのお母さん的存在だ。

そして青い髪をした少女は蒼井うみ(通称サファイア)。十六歳で、性格は物静かで何を考えているのかわからない。ワケあって眼帯で片目を隠している。

三人とも天羽出身のため生まれつき魔力を持っていたが、この仕事に任命されるまでは人間界と同じような生活をしていた。

かつて真珠の女神がそうであったように、任命されたときに宝石の名と宝石の武器を授けられ、それからはずっと三人でチームを組んで活動している。

「カレイド・スコープに報告に行かないとね」

うみがぼそりと呟く。

「ったく、いちいち神界に行かなきゃならねーのもめんどくせーよなー」

「こらっ、紅(べに)ちゃん!」

えんが面倒そうにするといぶきが叱る。これがお仕事ですよ、とぷんぷん説教開始だ。

三人は人間界から自分たちの出身である天羽を経由して神界へと向かっていた。

仕事をするのは人間界で、それが終わったら一々神界にあるカレイド・スコープ――神の雫が保管されている神聖な場所であり魔法使いの上司になる神様たちが所属する組織に報告に行かなければならないのだ。

「集めても集めても完成しないし、たった十二人で全世界の欠片を集めるなんて可能なのかしらね?」

「無茶言うよな。ほいほい出てくるもんじゃないしさ」

「まだ半分もいってない……」

カレイド・スコープが集めた宝石の魔法使いは全部で十二人いる。普段は数名でチームを組んで世界中を飛び回っているのだ。全員が天羽出身であり、もともと知り合いだったためチームワークは抜群であった。それぞれ優秀な仕事っぷりを発揮しているのだが、二年経った今でも神の雫の完成、復活は見えなかった。


神界カレイド・スコープ。真っ白な神殿のような建物の中に進む。広場には神の雫が置かれていた台座と、それを守るように獣神の像が並んでいた。

真っ白な壁には美しい空の模様が映り、床には金色に輝く花も咲いている。

ハープの音色が聴こえてくるそこは、神聖な場所といった感じだ。

広場を通り過ぎて奥へ奥へと進んでいくと、大きな扉がある。

「ルビー・エメラルド・サファイアだな?入れ」

「はい」

魔法がかけられた扉が開かれ、三人は中へと進む。

「ご苦労であった。欠片を預かろう」

三人は上司にあたる神様の前に方膝をついて、いぶきが神の雫を差し出し、報告を始めた。

「はい。A8エリア、G1エリアにて回収。G1は建物の復元をお願いします。両エリア共に魔物による人間への攻撃はありませんでした。」

「わかった。また明日、任務にあたってくれ」

「了解です」


その日の夜、天羽。

えん、いぶき、うみが共同で暮らす小さな家には、キッチンに立って料理を盛り付けているいぶきと、テーブルの前に座って大切な武器をぴかぴかに磨くえん、窓の外の月を眺めるうみの姿があった。

「そういえば……ざくろ姐さんたちの話、聞きました?」

「え?なんかあったのか」

えんが知らないと言うと、うみが月を眺めながら今日聞いた話をはじめた。

「いつも通り任務にあたってたらしいんだけど……黒い服を着た男に、邪魔をされたそうで。さっきまこちゃんから連絡が来た」

ざくろ姐さん、まこちゃんというのは同じ宝石の魔法使いたちのことだ。

「黒い服……?人間じゃないんでしょう?」

赤い鍋をテーブルまで運びながら、いぶきが不思議そうに

「なにかしらね?」

「とにかく、ちょっと気をつけたほうがいいかもしれないな」

いぶきとうみもテーブルの前に座って、ご飯にする。

「いただきます」






《……ァ……ダ……》

《サァ……復活、ダ……!》